土木建設会社の業務改善・収益改善レポート
企業概要
ある地方都市の土木設計コンサルタント業務及び土木工事を請負う建設業で、最盛期の売上は、10億円近くあったが、バブル経済後の長引く建設不況により業績は低迷し、ここ2、3年は3億円内外に留まるまでに減少している。現在の社員数は役員を含めて約30名で、本社のほか同一県内に営業所を1カ所設けている。土木設計コンサルタント業は、道路、橋梁、トンネル等インフラ整備に必要な設計業務を事業の核として、上流工程である測量業務、地質調査業務、下流工程として補償業務がある。それぞれ専門性が極めて高く、特に設計業務は、道路、橋梁、トンネル、上下水道、治山等に細分化されそれぞれ専門家による高度な知識・技術が必要である点が特徴である。
会社はいわゆるバブル期前の1980年代前半に、もとの土木設計コンサルタント会社から独立分離する形で設立し、興隆・衰退を伴いながら現在に至っている。
窮境原因
会社が窮境に陥った直接的な原因は次の通りである。
①多額の独立資金を支払った
親会社である、土木設計コンサルタント会社から資本面で独立する際、元のオーナーに支払う資金として1億円近い金額が必要であり、それを分割して支払い続けたため、自己資本が大幅に毀損した。
②経営環境の悪化に経営者が対応できなかった
上述した建設不況で売上がピークの3分の1にまで減少したにも関わらず、社長以下一部の役員が高給を取り続け、更に財務状況を悪化させた。
実行したこと
メインバンク主導のもと事業再生計画策定のため、事業DD、財務DDで経営実情が明らかになった矢先に経営者が逐電してしまい、元役員が新たに代表取締役に就任し、計画策定に至った。私がターンアラウンドマネージャーとして赴任したのはちょうどその頃である。以下は2年間に渡ってターンアラウンドマネージャーとして実行支援した主な内容である。
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社員全員とのヒアリング調査
赴任して最初に実施したことが、全社員への個別ヒアリングで、これまでの経緯、経営責任の所在、待遇への不満、今後の改善内容等について1人1~2時間かけて本音を聞き出した。特に本案件の場合は、事業DDで明らかになるまで、元社長と経理次長しか経営実情を把握しておらず、経営責任を取るべき代表が逃げたことで社員からの経営陣への不満、不信感は極めて高かった。若手社員を中心に退職者が続出した後、これ以上の人材流出を避けるべく、今後の対策と経営ビジョンについて丁寧に説明した。社員の要望をまとめ、これからの施策の企画立案に反映させた。
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業績・数値管理の完全見える化及び進行基準による管理会計制度の導入
業績不振の原因は売上高減少だけではなく、案件個々の利益率低下も大きな要因であった。支援実施以前から案件毎の実行予算書は作成していたものの、予算単価が実際の金額とかけ離れたもので、さらに利益の考え方も独特で分かりにくいものであった。これに対して実行予算の大幅改訂、利益算出法の改訂、一案件毎の月次業績推移の一表化と週次及び月次の業績管理の徹底を実施した。この点は金融機関からも当初より改善を期待された内容である。当然ながら進行基準による月次損益と期末PLは全社員に公表している。
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人事評価制度導入と就業規則の見直し
社員のモチベーション向上を目的に、これまで役員が一定の基準の無いまま決めていた昇給・昇格査定について、目標管理の要素を取り入れながら明確な基準と新たな賃金テーブルを策定した。
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ICT技術に特化した新規事業への取組み
今後も落ち込むことが予想される地方の公共・民間建設投資に対して、ドローンとレーザースキャナーを駆使したICT技術導入で県内他社からリードし、新たに起工測量など民間土木施工会社のニーズを県外まで幅広く汲み取る。現在計画進行中であり、今後の事業拡大が期待できる。
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2年目からのアクションプランの自主策定
当初事業改善計画のアクションプランは、専門家がヒアリングを通じて策定したが、やらされ感があり一部改善が滞った面もあった。そこで2年目からは各部門長または次席を中心に配下の職員全員で作成し、その達成度を一部評価に加味することで、他人事ではない「自らのアクションプラン」としてコミットできる体制にした。
効果
実行支援1年目から定量効果は目覚ましく、これまで4期連続して経常損失(▲23百万円~▲5百万円)を計上していたが、売上は横ばいながら個々の業務案件の利益率改善効果で1年目経常利益33百万円、2年目15百万円を達成した。(決算書は完成工事基準を採用しているため単年度では大きな差異が生じる。)
業績改善を受けて、新たにドローン事業計画に着手し、今後は攻めの経営に転じることが出来た点は、定性的にも大変大きな改善結果である。
まとめ
・建設業特に設計業務は製造業のように自動化による生産性向上が難しく、労働集約型ビジネスである。そのため「個々の人材に頼ること大」であり、社員のモチベーションアップが何にもまして重要である。
・抜本的な経営改革や人事労務改善には、よほど経営者の力量が高い場合を除いて中立な立場での外部専門家による企画立案・実行が有効である。
ターンアラウンドマネージャー F・T