公共工事の予算縮小や日本経済の悪化により、建設業では依然厳しい状態が続いている。売上高増加が見 込めない中、利益率の向上が経営改善の解決策の一つとなるが、本稿では、徹底した原価管理と選別受注に より売上高重視から利益率重視の企業体質への転換を図るための方策を探る。

企業再建・承継コンサルタント協同組合代表理事
真部 敏巳

M建設は、人口20万人程度の地方都市において、官庁工事を主体とした土木工事業と、ほぼ全てを民間から受注する建築工事業を営んでいる。M建設も公共工事の予算縮小や日本経済の悪化による同業他社との競争の激化に巻き込まれ、数年前より収益が激減し、実質上の運転資金の借入のために、低採算物件を受注するという悪循環の状態に陥っていた。いよいよ資金計画が行き詰まるというところで相談があった。

1.問題点の摘出

① 見積時点での原価の把握が正確でない。
② 決裁権者の承認がない受注がみられる。
③ 低採算物件でも、売上確保のために受注している(目標が売上額)。
④ 早期の資金調達(短期借入)のために低採算物件の受注をしている。
⑤ 公共工事の予算縮小のため、今後の官庁工事の受注減は必至である。
⑥ 土木工事建築工事共に、顧客からの値下げ要請が非常に強く採算が合いにくい状況である。
⑦ 建築工事は、現在の人員(2名体制)では受注量を増加させることができない。

① 工事原価を管理する体制(誰が・いつ・どのように)が確立されていない。
② 実行予算の作成が徹底されていない。
③ 常用的な作業員の人工管理及び小口の材料費の管理が徹底されていない。
④ 決裁権者の承認がない発注がみられる。
⑤ 工事物件別の収益管理体制が確立されていない。儲かっているのかいないのか分からない。

2.現状評価と今後の見込み

競争激化の中、売上額確保及び早期の資金調達のための低採算物件の受注が資金繰りの悪化を招いており、この循環を断たない限りM建設の自主再建はありえない状況である。
また、数年来、従業員を減らしながら売上を確保しているため、品質の低下が懸念される状況であり、売上重視の体質から利益重視の体質への変換が急務であると考えられた。

1.業務リストラ

① 売上高重視から利益重視へ戦略転換を図る。
具体的には全ての工事カテゴリーで選別受注を行う。選別受注により、売上高は25%減少(再建計画1年目)となるが、粗利率増加を図り(粗利額横ばい)乗り切る。
【選別基準:再建計画1年目】
・全ての工事で粗利益20%未満の工事受注禁止の徹底

② 建築工事部門を主力事業と位置付け、営業力の強化を図る。
建築工事部門の受注は、全てが民間からの元請工事での受注であり、地域のマーケット動向を勘案しても受注余力があると考えられたため、この部門を将来の主力事業と位置付け、選別受注により減少した売上を補うべく(3年後目標)、人員の増強を序々に図る。
【他部門からの移籍または新規採用】
・再建1年目:1名、再建3年目:1名

③ 新商品の開発
大半の建設業者と同様に、自社独自のオリジナルの商品またはサービスを持っていない。建築工事部門は、マーケットにおける受注余力があると考えられるものの、人口減少、少子化などの問題もあり、将来の受注を保障するものではない。この再建の取組みの期に、自社の強みを活かしたオリジナルの商品またはサービスの開発を行う。

① 業務フローシートを作成し、工事原価を管理する体制システム(誰が・いつ・どのように)を確立する。
② 実行予算の作成を徹底させる。具体的には、決裁権者の実行予算の承認がないものについては、発注できない仕組みとする。
③ 現場監督の人事査定に反映する形をとることで、常用的な作業員の人工管理及び小口の材料費の管理を徹底させる。
④ 外注材料費の請求書を物件ごとに集計できる体制とし、協力会社との相殺漏れ等を防ぐとともに、物件ごとのデータの集積を図る。

① 本社事務所を廃止し、事業部門事務所と統合することにより、経費削減を図った。
② リース品、保有車両の見直しを行い、経費削減を図った。

2.財務リストラ

総負債額と比すると小額であるが、社長個人の担保提供資産を売却し、債務の圧縮原資とした。

金融機関の協力を仰ぎ、担保預金の開放を行った。

1.再建計画

選別受注による低収益物件の排除と経費の削減により、再建1年目に前期と同水準の粗利益額を確保できることが確認でき、これをベースに比較的硬い部門別損益計画(今後5年間)を立案することができた。ただし、直近の資金繰りは非常にタイトであり、一部協力業者への支払いの先延ばしを行うとともに、メイン金融機関へは、約定返済分の1年間元本返済据置き、短期融資の書面上の借換え(一時的な内入はしない)、担保預金の開放をお願いした。

2.コンサルティング結果と今後の予測

金融機関は非常に好意的に折衝に応じてくれ、再建計画の依頼事項通りではないが、ほぼ同等の効果を生じる対応をとって頂くこととなった。この結果、再建1年目の半ばではあるが、ほぼ計画通りに進んでいる。

この事例は、典型的な中小の建設業の事例と言える。特徴は、受注時施工時ともに正確な原価を把握していない、所謂『どんぶり勘定』で仕事を進めている点である。そこで、案件別に原価管理を行う業務フローを社内に定着させることさえできれば、かなり利益率の改善ができることになる。ただし、受注時に厳格な原価管理を行うと、当然ながら低採算案件を排除することになり売上高は減少する。その減少分を経費削減などで補うわけだが、ここまでではリストラであり本格的な再建とは言えない。やはり、新規受注先開拓や新商品開発など新需要掘り起こしの方策が必要である。