事業領域の拡大路線をたどってきた企業は、事業収益の中心が本業以外になっていることが多い。このよ うな場合、複数の事業戦略の失敗と本業の収益の自然減により利益率が低下している状況にある。各事業を 分析し、いかに事業の選択と集中を行うかが今後の企業の動向を左右する。

企業再建・承継コンサルタント協同組合
中小企業診断士 山岸 一

株式会社X(以下X社)は元テレビショッピング制作会社の関連業務に従事していた現在の社長が独立して有限会社としてスタートし、創業約15年を経過している。経営者は過去の経験から売れ筋生活雑貨・家電の見極めと調達、および販売ノウハウなど、生活雑貨・家電マーケットに精通しており、テレビショッピングを軸に業績を順調に伸ばしてきた。その後、卸売業にも事業分野を拡大し、卸売業でも順調に業績を伸ばすことができ、創業から5年後に株式会社に組織変更、増資を行い、従業員数も30名規模まで拡大して現在に至っている。

事業内容は多岐に渡り、小売部門では創業当時から取り組んでいるテレビショッピングのほか、ネットショッピングにも進出している。卸売部門では経営者の得意分野である生活雑貨・家電のほか、化粧品、インナーなどへも進出している。とくに家電部門ではハロゲンヒーターのヒットによって大きく業績を伸ばすことができた。また、化粧品部門では化粧品卸売のノウハウが未熟な1次卸であるY社の取扱商品を2次卸として取り込み、専門店・量販店等へ販路を拡げることに成功して業績を拡大してきた。

このような経過をたどる中、創業時にメインであったテレビショッピングがX社の中で占めるポジションは大きく低下し、ネットショッピングも含めた小売部門全体の売上高は全売上高の数%程度にまで低下し、全売上高の95%程度は卸売部門が占めることになった。

商品開発は主としてOEMに依存している。生活雑貨・家電部門では国内やアジアにおいて開催される商品展示会に経営者自らが足を運び、国内でまだ販売されていない商品を中心にOEMの商談を経て自社商品として開発する手法をとっている。また、化粧品・インナー部門では話題性のある成分を配合して販売されている他社商品を商品開発部門が検証、検討し、同様にOEMによって自社商品として販売する手法が中心となっている。

このようなX社の新商品投入と事業分野の拡大戦略によって、約20%の確率でヒット商品を生み出してくることができたが、X社の事業戦略は必ずしも順風満帆ではなかった。X社の経営状況に大きく影響を与えることとなったのはカーボンヒーター事業の失敗に端を発する。カーボンヒーターは電気ヒーターのニクロム線部分をカーボン製としたもので、遠赤外線効果や節電効果が得られるといわれている。X社は過去のハロゲンヒーターの成功からカーボンヒーターの将来性に期待し、OEMに踏み切ったが、同年の暖冬などが影響して販売状況は振るわず、大量に在庫を抱えたまま冬を越す事態となってしまった。さらに、翌年も暖冬に見舞われ、その結果、原価割れで在庫を大量処分しなければならないという事態に陥ってしまった。

化粧品部門でも販売当初から好調だったY社商品は投入から数年間が経過し、売上高は衰退傾向にあることに加え、Y社は自社の販売ノウハウが一定のレベルに達してきたという理由でX社の役割は終えつつあると判断、X社を介さない直接取引の方向を模索し始めている。また、同じく化粧品部門ではX社自身もY社ヒット商品に倣い、自社商品をOEMで市場投入したものの、市場の反応は冷ややかで、その結果過剰な在庫を抱える状況に至っている。

さらに、生活関連用品マーケットから産業用品マーケットにも事業領域を拡大し、携帯電話画面事業や監視カメラ事業にも進出したが、いずれも成功には至らなかった。

このように一部の事業分野では失敗に終わっているものもあり、厳しい立場にも何度となく置かれてきたといわざるを得ないが、これまで売上高を拡大してきている実績があること、経営者の優れた交渉力とそれをバックアップする他の経営陣の強力なサポート力によって金融機関から継続的に資金を調達することに成功してきている。経営者の手持ち資金がないと安心できないという性格から、売上高10数億円規模ではあるものの、約3億円の借入金を常に保有している。

筆者がコンサルティングを開始した際には先に述べた複数の事業戦略の失敗とY社商品卸販売の自然減が影響し、X社の経営指標は低下している状況にあった。とくに粗利率は卸売部門開始当初 30%台を確保していたが、前年度は約20%にまで低下し、本年度は15%程度まで低下することは避けられない状況となっていた。粗利率の低下に伴い、営業利益率も悪化している状況に陥り、巨額の借入金利息の支払いに追われていた。

さらに売上不振の商品在庫量も大きく影響し、在庫保管期間も必要以上に長期となってきている状況であった

経営者はX社が関係するマーケットの流行の移り変わりが速いことから、新商品を次々と投入して事態を乗り切ることを信条としている。そのためにはこれまでに手を出したことのない新規事業分野にも積極的に事業展開していく必要性を強く認識しており、巨額の保有借入資金を背景に今後も積極展開していく方針である。具体的には新たな事業としてインクジェットプリンタのインク事業への進出や、先のカーボンヒーター用フィラメントを改良して産業用に転用することも検討している。いわば新商品投入で走り続けることを覚悟している。

卸売部門アイテム別指標から

先に記載のとおりX社の事業領域は創業当初のテレビショッピング型小売業から卸売業へとシフトしている。従来のテレビショッピングを中心とした小売部門売上高は全売上高の数%程度で安定しており、テレビショッピング型の経営手法だけでは現在の売上高を維持していくことは困難である。したがって、小売部門はテレビショッピング市場の将来性も見込まれるため少なくとも拡大均衡で展開可能と判断し、X社の本業となっている卸売部門を中心に問題点を把握することとした。そして、第一に多岐に渡るアイテムに関して収益性を中心とし経営指標を整理することとした。図表2に直近1年間におけるその集約結果を示す。

図表2から明らかなとおり、現在のX社は化粧品部門に大きく依存している。化粧品部門は売上高ウエイトで76.9%を占め、粗利ウエイトでは90.9%を占めており、X社の利益は化粧品が全てといっても過言ではない状況であることがわかった。また、化粧品部門の商品回転期間や在庫ウエイトは他のアイテムと比較して良好であることも判明した。

顧客別の粗利額を見てもやはり化粧品部門のウエイトが高く、その中でもとくにY社商品の依存度が極めて高く、全体の粗利額の77%を占めていることがわかった。

このように化粧品部門のウエイトが高い一方で、事業領域の拡大路線をたどってきたX社の経営資源は分散化してしまい、中小企業規模のX社の限られた資源が有効に配分されているとは言い難い状況にあると考えられた。

商品開発力から

X社の新商品投入の経緯は要約すると以下のとおりとなる。

(1)生活雑貨・家電部門:国内やアジアで開催される商品展示会等で有望商品を発掘してX社が OEMにより取り込む。

(2)化粧品部門:Y社商品についてはY社から販売サポート依頼を受けて着手した。他の化粧品については商品開発部門が他社商品を調査して有望であると判断された場合にX社でもOEMにより取り込む。

(3)インナー部門:商品展示会や人的ネットワークを通じて有望商品を発掘してOEMとして取り込む。

以上から読み取れる特徴はいずれも既成商品をOEMによって自社商品として取り込む点にある。とくにヒット商品は国内で既に販売されている商品を自社ブランドとして投入しているケースが多く、X社の市場投入は「二番煎じ」型となっている。商品開発部門はどこよりも早く情報をキャッチして市場投入したり、自社オリジナル商品を開発するというよりは、むしろ既成商品の将来性を調査して自社商品化するという役割に終始している状況にあった。

取扱いアイテムが多岐に渡るX社商品を先のアイテム別経営指標をベースにマトリックスとして整理すると図表3のようになると考えられる。

図表3の横軸には上図では売上高の大小をベースに売上貢献度を、下図では粗利率をベースに収益性として設定した。縦軸には上図では同業他社と比較した在庫保管期間、在庫ウエイト等をベースに効率性として設定した。また、下図では成長性として本誌では省略しているが、外部環境分析によって検証した一般的な市場規模とその将来性をベースとして設定した。

図表3のプロット結果からX社が主軸とすべき事業は化粧品部門とインナー部門であり、生活雑貨・家電部門は事業を継続していくに値しないという結論が導かれる。

しかしながら、図表3は定量的な数値データに見られるX社アイテムのポジションとなっていることから、別途定性的な観点から検討を加える必要がある。

今後の事業展開において主軸としていくアイテムについてはX社にノウハウが蓄積されていることや、商品情報のルートが広く確保されていることが必要となる。したがってこのような観点から別に図表4に、X社の数値化されない定性的な事業力を相対的に評価してプロットすることとした。図表4からは図表3とは裏腹に化粧品部門やインナー部門は他のアイテムと比較してX社の不得意分野であると結論付けられる。この結果、X社の収益を確保しているアイテムは、実はノウハウや情報力がX社内部では相対的に劣っているというジレンマに陥った。図表5は再度売上規模と課題を整理したものである。

以上のような結果ではあるが、X社ではY社の化粧品販売戦略においてコンサルティング的役割を担い、同社の業績向上に貢献してきた実績がある。これはX社の化粧品部門のノウハウは他アイテムと比較すると相対的に劣勢であるといわざるを得ないが、その実績から対外的には競争力はあることを裏付けるものと判断できる。よって売上高が衰退傾向にあるY社商品の取扱いを確保してノウハウをさらに高めることができれば、X社にとって今後も継続すべき事業であると考えられる。また、インナーについても取扱いを最近開始したばかりの新規分野ではあるが、十分な粗利率を確保できている状況から今後も実際の取扱いを通じてノウハウを高めていくことで競争力をさらにつけていくことは可能と判断し、X社が継続すべき事業と位置付けられる。

結論として、いずれのアイテムもX社の内部では相対的にノウハウなどの強みの面で劣るものの、対外的には十分に競争力を有していると判断でき、今後の市場の将来性や収益性の観点から両アイテムに注力していくべきと結論付けた。残る課題はX社にそのことを認識してもらい、自信を持ってもらうことである。

一般的に卸売業の存在意義が問われる中、X社もY社との取引においてその存在意義を見失ってしまった。Y社は化粧品卸売を開始した当初は、X社に販売店を確保するためのノウハウや店舗指導を受けるべく、X社に2次卸としての役割を担わせたが、発売から数年を経過した現在、自社に化粧品卸販売に関するノウハウが蓄積してきたと認識しており、X社の存在は収益確保の足かせになっていると判断している。X社もその存在意義がなくなっていることを意識して自信を失い、現在は店舗指導などのY社商品のマーケティング活動に関与せず、単なる中間業者の立場にある。

しかしながら、実際に卸売業としての存在意義がなくなったのであろうか。X社が新たな商品投入を継続して走り続けなければならないことを常に危惧しているように、化粧品の新成分や新機能は次々と開発され、新商品は常に投入されていることから、Y社においても自社商品が競争力を失わないようマーケティング活動に日々頭を悩ませているのである。簡単に2次卸売業の役割を終えたと判断してしまうのではなく、X社の役割はY社のマーケティング活動にさらに深く関与して、両社協力のもと現商品の価値を高めていくことにあると考えられる。そのためにはX社は化粧品分野のノウハウを一層高める必要があり、限られた経営資源を化粧品部門やインナー部門に集中していくことが必要不可欠である。これまでのX社の取り組みは各種部門に人員を平均して配置し、総括的に商品開発、販売活動を行ってきた。そのため、商品開発では新規技術情報や流行をキャッチする情報力に欠けており、独自性を見出して先行型商品を市場に投入し、先行優位性を確保する展開が実現できなかった。常に他社の先行商品を自社OEMとする「二番煎じ」的な商品開発とマーケティングに留まってきた。これからはX社が先行して市場投入できる新商品を開発するのに相応しい資源配分を行うことが必要なのである。

このような資源配分を通じて、ノウハウの向上も加速度を増すことになる。ノウハウの向上が実現すればY社との関係も好転し、さらにY社と協力した新商品の市場投入の可能性も見えてくるはずである。

以上のような舵取りが必要であるという認識は、X社において深まりつつあるものの、創業当時から手掛けてきた得意分野である生活雑貨・家電に対する経営者の想いは強い。したがってX社に対するコンサルティングは現在も継続しており、具体的モデル事業として新成分に基づく新化粧品の商品化についても検討しており、「二番煎じ」からの脱却も模索している段階にある。

是非とも具体的なモデル事業を成功させて経営者に自信を持たせてあげたい。